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艶やかな黒い瞳は、愛情たっぷりに濡れていて、煌めいている。
月は、高鳴る鼓動に翻弄されていた。
(この、気持ちは、私の気持ちなの? それとも、空亡の気持ち?)
微かな不安が、月を躊躇わせた。
(乾太郎が、求めているのは……、空亡なのかも……)
空亡が作った二人の縁は、絡まりあっていて、素直には解けない。
それでも――。
月は、自分の心に灯る、乾太郎への想いがどんどん熱を上げていくのが止められない。
月は、瞼をそっと下ろした。
そして今しがた乾太郎が言ってくれた言葉を噛みしめる。
サスケを救いたいと願った月の記憶は、空亡の記憶を重ねていたからかもしれないと言った時、彼は言ってくれた。
(ちがうって、言ってくれた)
体温が、近づいてくるのが分かる。こそばゆさに似た、乾太郎の吐息がゆっくりと、唇に寄せられていく。
「かんた、ろ」
声が、自分で出したものと思えないほど、擦れて、揺れている。まるで、幼いころの孤立に怯えたあの日の頃みたいに。
「好きだよ」
伝えなくてはと、必死に勇気を振り絞って、月は唇を動かした。
その言葉に、返事はなくて――。代わりに、柔らかく、暖かいもので塞がれた。
キスの音色の「チュ」という音もなく、静かな口づけが、柔らかく包み込んだ。
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