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そうっと、優しい慈愛に満ちた乾太郎のキスに、不安な気持ちは吹き飛ばされた。そして代わりにとろとろした甘ったるい蕩けた蜂蜜みたいにまろやかな膜で包み込まれていく。
乾太郎の唇の感触に甘えながら、彼に全てを捧げたいとすら思える愛情が膨れ上がっていく。
貧乏神は、お金以外の幸せを全て満たしてやるという。
これもその力なのだろうか。こんなにも満ち足りた多幸感は、生まれて初めてだ。
乾太郎の唇が、そっと離れていく。
「あ……」
思わず、月は名残惜しそうに声を漏らしてしまった。
もっと、重なっていたいという思いが、溢れかえって声になったみたいに。
「お前が欲しい」
乾太郎が熱を孕んだ声を耳元で囁く。
ぞくりとするほど、愛しい声で、月は心が思考に追いつかなくなってしまう。理性なんて吹き飛んでしまいそうだった。
(乾太郎が、与えてくれる能力じゃないんだ……)
掌同士を重ね合わせている指先が、愛撫するように絡み合う。
(かんたろが、私のこと、欲しがってくれてるんだ……)
我慢できないと、乾太郎の熱い囁きが耳朶を打つ。重なり合った身体の、彼の鼓動も早鐘を打っている。
「オレが、護るから」
乾太郎が決意をもって、見下ろしていた。
正直に、かっこいいな、なんて月は思ってしまった。
男の人を、こんな風に、恋い焦がれるなんて、乾太郎に出逢うまで知らなかった。
「愛させてくれ、ルナ」
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