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「かんたろ、マヨヒガに行かないで、ここで一緒に居ようよ。酒呑童子なんて、無視してればいいんだ」
「それじゃだめだ」
「どうして?」
「無視はしない。認めさせる。そうしないと、アイツと同じやり方になるから」
空亡をあやかしとして認めなかった酒呑童子のやり方は、『無視』をするということになるのだろう。
それと同じやり方を、乾太郎は嫌っていた。そうでなければ、乾太郎の誇りが納得いかないのだ。
「認め、させる……?」
「ああ、お前のことを、あいつに認めさせる。それがオレの勝負だ」
「かんたろ……」
「ルナをマヨヒガに案内した事も、本音を言うと、それだった」
乾太郎が、月をマヨヒガへ連れて来たこと。あやかしインベスティゲーションを始めようと誘ったこと。それは全て、最初から月を――いや、空亡を、もう一度マヨヒガに認めさせるためだった。
月がそのせいで、閉じ込めていた過去の記憶に心を苦しめられても、また酒呑童子に目を付けられても、乾太郎はそうしなくてはならなかった。そう、したかったのだろう。
「空亡を、認めさせたい」
「かんたろ……」
その乾太郎の意思に、月も頷いた。
月とて、まったく同じ気持ちだったから。空亡の記憶を思い出して、月はあやかし崩れとして哀しみを背負った幼い妖怪を今度こそ、救いたかった。
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