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「それこそ、待てと言いたいな。この件は最早、お前だけのものではない。縁は複雑に絡み合って、僕も、奈和さんも巻き込んでいるのだから」
「そうだよ、かんたろ。それに私ももう一度、しっかり飛燕と話したい。本当に、四十万飛燕が、空亡を追放させたのか、ハッキリさせないと、気が済まないの」
月の言葉に、乾太郎は目を丸くして過敏に反応した。
「ルナ! お前、まさか酒呑童子にすら、『悪意はない』とか言うつもりなのか!?」
「そうだよ」
「っ……」
きっぱりと言った月に、乾太郎は絶句していた。
それが月の人間性であり、魅力であり、誇りであった。
その人物の悪名を人づてに聞いて、人となりを判断しない――。真実を調査する。そして、きちんと相手の人柄を知ることこそ、月のやり方だ。
それを変えるつもりは、今後いっさいしないつもりだ。
「私だって、あいつのことは気に入らない。でも……、飛燕も単純に悪者って気がしないの。私が空亡の記憶で苦しんでいる時、あいつ、本気で心配してくれてた」
「そんなものっ」
乾太郎が怒気を強めて否定の言葉をぶつけようとしたが、月は乾太郎の手をそっと握って、瞳を覗き込む。
乾太郎の怒りも分かる。しかし、怒りは人の心を束縛し、色眼鏡をつけさせてしまう。
だから、乾太郎の中の憤りを、月はそっと受け止めて、鎮めたいと願った。
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