貧乏神の能力

8/11
前へ
/314ページ
次へ
 とにかく、一刻も早くネコを治療してやらないと、このネコは助からないかもしれなかった。  胸にネコを抱きかかえ、自分の服を血で汚しても、月はできる限りネコの痛みをやわらげたくて、後ろ足を支えるように抱いた。 「獣医……獣医なんてどこにあるの!?」  混乱のなか、冷静な判断ができない。どっちに向かって走ればいいかもわからず、慣れない街の片隅で、月は救いを求めた。誰でもいいから、このネコを救ってほしいと。  そこに、一台のタクシーがやってきた。ほとんど反射的に月はそれを捕まえた。  止まったタクシーに素早く乗り込むと、「近くの獣医のところに行って!」と運転手に頼んだ。  だが、運転手は嫌な顔をした。血を流すネコが座席を汚すのを嫌ったのだろう。 「ええ? 他当たってくれません?」 「命がかかってるって分かるでしょッ!?」 「だったら悪いけど、汚した分はきっちり請求させてもらいますよ。あと、獣医? この辺ないんで、ちょっと遠くなるかも……」 「良いから早く出して!!」 「はいはい」  バタンとドアが閉まった。苦しそうなネコの吐息が薄らいでいく。それが堪らず胸を抉るようだった。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加