貧乏神の能力

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 タクシーは暫く走った。どうにか到着した獣医に、すぐにネコを診てもらうようお願いしてから、タクシーの運転手に謝辞を述べて、金額を聞いた。 「三万二千五百六十円」 「……そ、そんなに?」 「だって、お客さん、見てよこの座席、血が付いちゃった。こんな席で他のお客さん乗せられないじゃん。営業妨害になっちまうよ。ほんと勘弁してくれって」  タクシーの座席のシーツカバーが赤茶色に汚れていた。  確かに、汚したのは自分のせいだ。月は、しかたないとサイフの中から金額を払い、悪態をつくタクシーに頭を下げて見送った。  それからネコを気にして、獣医に戻ると、そこでも耳を疑うことを聞かされた。 「この子、キミの飼い猫じゃないんでしょ?」 「え、はい。そうです」 「治療費、どうする?」 「え……おいくらなんですか……?」 「まぁ、これだと結構するよ。十万以上は」 「……!」 「野良猫のためにそこまで払う?」 「払わなかったら……、どうなるんですか、その子……」 「ウチも慈善事業じゃないんで、まぁ……ね」  はっきりとは言わなかったが、見捨てるということだろう。  月は、その瞬間に凄まじい憤りが生まれていた。  確かに、このネコは野良猫で、自分勝手に道路に飛び出し轢かれただけだ。  だが、だからと言って見捨てていいのか? それはあまりに、哀しい世界だと月は思った。     
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