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「ど、どうして、ここに……」
「オレは、君の傍になら、呼ばれれば飛んでこれるから」
「……え、じゃあ、家からここまで飛んできたの? 私、かんたろのこと、呼んでないよ……?」
「呼んだよ。キララちゃん、助けを求める声がした」
無意識だったのだろうか。
ショッキングな出来事に混乱して、哀しい人の世の無慈悲さを痛感して、誰かに救いを求めていた。
その時に浮かんだのは、乾太郎の顔だったかもしれない。
「かんたろ……私……私……」
ぐう、と目の奥が熱くなっていた。いつの間にか、ぽろぽろと涙が溢れて止まらなかった。
乾太郎はそんな月を、そっと抱きしめて、頭を撫でてくれた。乾太郎の逞しい腕のなか、大きな優しい掌が髪を撫でてくれるのが、どうしようもなくほっとした。
上着についた血が、乾太郎のシャツに触れることを考えて、すぐに身を引こうとしたが、乾太郎はそれを封じて、もっと強く抱きしめてくれた。
「うああ……、うあああっ」
もう、涙も嗚咽も止められなかった。
ただ、乾太郎の胸の中で、月は泣きじゃくった。
今は、冷たい人の世より、温かい貧乏神の腕の中が居心地が良かった――。
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