五円玉のヒミツ

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「……それはそうかも、しんないけど……」  確かに、例えば一万円を五円玉に換算すると二千枚持っていないとならない。それを貯蓄しておくというのは現実的とは言えない。  それに、五円玉は自販機や券売機なんかには対応してくれない。五円だけを所持して生活するなんて、とても不便だろう。  そもそも、五円玉の毎年の製造枚数だって五~六万枚程度だ。何千枚もの五円玉を保持するなんてできることではない。 「結局有効な手段はないってこと?」 「……そのとおり。と普通なら言うんだが……オレは正直なところ、きみのこと、気に入ってしまった」 「え?」 「離れたくないって言ってるんだよ」 「な、なんで? 私なんか特別なことやった?」 「お金よりも、命を重視した」 「……そんなの、当たり前じゃん」 「……その当たり前ができない人間が多いことを、君は知らないんだ」  その重みをもった一言は、今日一日で実感した。利益、損得で物事を計る人間社会の一端に触れ、哀しい思いをしたばかりだった。     
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