五円玉のヒミツ

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「これまでこの部屋に来た人間たちもみんなそうだった。金がどんどんなくなっていく事実に、自分の金を護ろうと必死になっていった。それは人間として、当然の行いなのかもしれないが……君はその定義を外れて、何の関係もない弱い命のために自分の金を使った」 「ちょ、ちょっとまって。でもあれは貧乏神の能力で、お金を使わざるを得ない状況になったからでしょ?」 「違うね。よく思い出してほしい。君はネコを見捨てておくことだってできたはずだ。タクシーに乗る前、獣医で手術代を聞かれた時も。断ることができた。それを君は自分の意思で、お金を使った。貧乏神の力は、例えあの時君がネコを見捨てたとしても別の形で金を奪ったはずだ」  そう言われて、月は口を噤んだ。確かに、自分の意思で決めたことだ。ただ、ネコを救いたかった後先を考えていない愚かな行為だと嘲ることもできただろう。 「お金の使い方を選択した。オレはそこに、その……なんだ、ええと、……きみのこと、いいなって思った」  なんだか赤くなった顔をした乾太郎を、月は呆気にとられたように見ていた。 「だって、聞いてくれ。きみの前の住居人。どんな散財をしたと思う? ゲームの課金だぜー。それで数千万……、オレは救いの手を出すことより、呆れてしまった」  そんなのと一緒にされるのもなんだかな、と思ったが、どうやら、乾太郎が自分を気に入ってくれたというのは理解できた。     
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