五円玉のヒミツ

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 しかし、そんなことを思う月を無視して、乾太郎は人差指をたてて、ウィンクした。 「どうだろ、この話。悪い話じゃないと思う。これを呑めないなら、この部屋からの退去を進める。……君を借金地獄に苦しめたくはない」  思いも寄らない話になったが、同時に少し面白そうだという気持ちもあった。  あやかしの依頼にも興味があるし、報酬だとか還元だとか、なんだか未知の世界が広がっていた。  何より、少し思ったことは、乾太郎が、自分のためを想ってくれているのが、こそばゆくって嬉しかった。  結局、自分もこの奇妙な同居人を気に入っているのだと分かった。乾太郎のように。  だって、こんな貧乏神、みたことがない。 「分かった、私そのあやかしの仕事、やってみる」 「グッド!」  ピン、と親指で跳ね上げた五円玉がくるりと回転しながら宙を舞った。
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