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念のため、ベッドの傍に置いてある防犯目的に用意した木製バットを握りしめた。泥棒なら、これで叩きのめしてやるくらいの気概はあった。
そっとドアを開け、洋間からリビングを窺うと、そこにはテーブルが見える。
そして、そのテーブルの上を見て、ぎょっとした。
なんと、そこには料理が並んでいたのである。しっかりした和風の夕食が二人前、用意されている。温かく盛られたご飯、湯気立つお味噌汁、焼き魚と煮作り……。
「へっ?」
その光景に、警戒心よりも呆れのほうが先に出て、月は茫然とした。
「あー、起きた?」
「は?」
男の声がした。緊張感のない、ふわーっとした気の抜けた声だった。
思わずキッチンのほうに振り向いて度肝を抜いた。
そこには長身の男が立っていた。青年だ。見た目は若く見えるし、容姿がいい。清潔そうな短い髪は黒々としていて、優しげな印象の目をした青年がエプロンをしてキッチンに立っていた。
「ごはん、今日食べてないでしょ?」
「え? え?」
「丁度できたから食べよう。ちゃんと食べないと、身体によくないよ」
「は、はい」
促されてテーブルの前に腰かける。美味しそうな味噌汁の香りが、食欲を刺激した。
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