池袋の地下、マヨヒガの商店街

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 しかし、乾太郎がエレベーターのボタンを押す。勝手に良いのかと言いたくなったが、乾太郎は慣れた様子だった。  やがてエレベーターが開くと、中には添乗員が居る。俗にいうエレベーターガールだ。若くて綺麗な女性だった。チケットを持っていないとそこで止められてしまうはずだが――。 「こんにちは」 「あ、勘解由小路さん。お早うございます」  ぺこりとお辞儀したエレベーターガールは柔らかく笑った。どうやら、乾太郎と知り合いらしい。 「地下行で宜しいでしょうか?」  ちらりとエレベーターガールが月を見ながら言った。 「うん、それからこの子、これからよくここを利用することになると思うから覚えといて」 「はい。よろしくお願いしますね。私、森岡(もりおか)奈和(なお)です」 「あっ、えっと、私は雲母月です……」  ぎこちない挨拶をしてエレベーターに乗り込むと、すぐに扉がしまった。  操作パネルを見ても今乗った地下一階以外には、地下行のボタンが見当たらない。  さっき地下行でいいですか、と訊ねた奈和の言葉に眉をひそめた月だったが、奈和は両手を使って、地下一階のボタンと、六十階のボタンを同時に押し込んだ。  するとエレベーターが動き出す。     
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