池袋の地下、マヨヒガの商店街

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 エレベーター特有の胃が持ち上がるような違和感がして、操作パネル上に取り付けてある現在の階数を示す電光板の数字が、なんと、マイナスを示して数を増やし始めた。 「えっ!? 下がってる!」 「地下六十階行、だからね」 「地下六十階って……」 「本当に地下に下りているわけではありません。所謂異世界エレベーターです。あやかし専用、マヨヒガ行のエレベーターとなっております」 「マヨヒガ?」  マヨヒガ……、『迷い家』と書き、そう読むのだと乾太郎が教えてくれた。マヨヒガは訪れたものに幸を与えると言われる幻の家であり、そこに辿り着けた者はそこから何か物品を持ち出していいことになっている。  どうやら、そのマヨヒガが地下六十階にあり、そこにアヤカシは集っているのだとか。  奇妙な感覚に囚われ、エレベーターの数字がどんどん下がっていくのを見つめていると、周囲の照明の様子も切り替わり、ブルーライトが点灯し、幻想的な音楽が流れだす。 「うわ、凝ってる」 「気に入った?」 「ま、まぁ、それなりに……」  にっこりと笑った乾太郎に、少しはしゃいだような声を出してしまった月は恥ずかしくなって声を落とした。  正直少しだけワクワクしていた。ただ、子供みたいと笑われたくなかったので、誤魔化してつっけんどんに返事をする。 「到着致しました。ごゆっくり、マヨヒガをお楽しみください」     
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