池袋の地下、マヨヒガの商店街

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 奈和の会釈と共にエレベーターの扉がゆっくりと開いた。 「わ…………」  思わず月は、言葉を失うほどだった。  池袋の地下に(厳密には地下ではなく異世界らしいが、月は地下に下りた感覚が強かった)こんな場所があるとは思えなかったのだ。  その光景は、古き良き、日本の原風景とでも言うべきか。  建物の中に居たはずなのに、そこは緑が広がっていた。小川が流れ、紅い橋が架かっている。  その奥には、大きな家屋が厳かな雰囲気で横たわっていた。  家屋と言っても、並みのレベルではない。どちらかと言うと、民宿――。大きなお屋敷かはたまたお城か、という印象だった。 「あれが、マヨヒガ?」 「そう。人間界で暮らしにくいあやかしだとかは、あそこで生活している」 「に、人間の私が入っても平気なの?」 「普通はだめだ。オレの手形があるから今回は大丈夫」  柔らかい風が吹き込み、穏やかな小川のせせらぎの中、紅い橋の上を、靴音をこつりこつりと鳴らして進む。  すると、そこには真っ黒のスーツに身を包んだ双子の青年が立ちふさがった。 「手形を」 「はい」 「……どうぞ」  口数少なく鋭い目をした双子の青年はじぃ、と月の姿を下から上まで観察し、同じ声で同時に告げた。 「「問題を起こせばすぐにつまみだす」」     
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