池袋の地下、マヨヒガの商店街

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 じゃりじゃりという足音が大きくなって、乾太郎が零した囁きが聞き取れなかった。ただ、くしゃっとした笑顔を浮かべていて、見ているとこちらもむず痒くなってくる。 「さあ、着いた。ここがあやかしの集うマヨヒガだ。中では色々な商売をしているあやかしがいる。オレたちもその中で、店を構えよう」 「え! 店を出すの?」 「そう。あやかしが人間社会に順応できずに困っている時の相談室とか、人間社会の調査を請け負ったりするのがいいだろうね。きみがあやかしと人間の社会を行き来できる利点を活かすんだ」 「なんか……私立探偵みたいね」 「探偵か……。ううん、どうもしっくりこないな」  顎に手を当てて、乾太郎は思案しているようだ。 「探偵よりは、万事屋……? ううん、しかし何でも屋ってのは大雑把すぎて客が来にくいか?」 「あ、あの、かんたろ。結局私はあやかしに対してできる仕事があるってことでいいの?」 「そりゃあ勿論あるさ。人間だからこそ分かることもあるだろうし。動きやすいところもあるだろ?」 「乾太郎が斡旋するのは、ようするに調査員の仕事ってこと?」 「――ああ、調査員。いいね。探偵よりは柔らかい。あやかし調査依頼事務所、なんていいかもね」  マヨヒガの中に入っていき、ずんずんと奥に進んでいく乾太郎に続きながら、月はマヨヒガの内部を観察していた。     
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