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あやかしの住まう場所で、ここは賑わう商店街――。そういう説明だったので、奇妙な住人たちが目につくものかと思ったが、目につく人影は誰もが、普通の人間の姿をしていた。目玉が三つあったり、ツノが生えていたりとか想像したがそういう特別な外見を持つ人物はいない。
ただ着ている服装が少しばかり時代にそぐわないというか、妙にレトロな明治や大正時代を彷彿とさせるものが多い。それ以外は、ごく普通の人間だ。老若男女いる。
マヨヒガの玄関を潜り抜けていくと、広いロビーがあった。両脇に廊下が伸びていて、乾太郎が右の廊下を進んでいく。
すると、廊下の脇にある衾には看板が取り付けてあり、小豆洗いの豆工房とか、枕返しの安眠布団とか、あかなめ掃除用具店とか、ちょっと奇妙な店構えが並んでいる。
「この旅館みたいな建物の部屋を借りて、一部屋ごとに商売してるの?」
「そうだよ。オレたちも同じことをこれからするのさ」
「そ、そんなポンとできるようなものなの? 手続きとかないの?」
「手続きは、あやかし協会に加盟してる段階で許可が下りてるから……って、そうか、あやかし協会のことを言ってなかった」
乾太郎がジャケットの懐から、何か手帳のような小さい本を取り出した。それを月に手渡す。
「それがさっきも言ってた手形になる。分かりやすく例えるなら、ビザだよ。妖怪国へのビザ」
「パスポートってことか。私は持ってないけど……」
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