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今日は引っ越しで疲れ切っていて、食事を摂るのが億劫になっていたのだ。別にいいやと考えていたが、こうしてご飯を目の前にすると、お腹がペコペコだったんだと思い知らされる。
「納豆いる?」
「いる」
青年が、冷蔵庫から納豆パックを取り出して、刻んだネギを用意してくれた。
「じゃあ、食べよっか」
「……ちょ、ちょっとまって。状況が分からない」
月が眉間を抑え込んで、状況のすり合わせを行おうとするのだが、とりあえず、一言聞いておきたいことがあった。
「あんた誰?」
「オレは、この部屋の住人」
「私がこの部屋を借りたんだけど?」
「そうだよ。君が新しいこの部屋の主だね」
にっこりと笑む青年は、なかなか美形だった。優しい声色も聞いていて落ち着く。
――が、ここはうら若い乙女が借りたばかりの部屋のはずだ。男の侵入を許していいわけがない。
「出ていけ」
「無理だよ。オレはこの部屋の住人だから」
「いやいや、この部屋は私が借りてるのッ!」
「そうだよー、でもそれとはカンケーなしにオレの住居でもある」
月は、普通ならここで通報ものだと考えていた。だが、この部屋は異常な部屋だと事前の情報と覚悟があったため、この特殊な状況に対して、どこか冷静にもなれていた。
そしておそらく、この男の正体は、幽霊的なやつではないかと考えたのだ。
「あんた、この部屋の地縛霊か何か?」
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