あやかし調査員の初仕事

3/10
前へ
/314ページ
次へ
 その距離が近すぎて、月は、思わずひゃん、と乙女みたいな声を上げてしまった。乾太郎の吐息が耳たぶにかかってくすぐったかったのである。 「ちょ、ちょっと近い」 「ご、ごめん。つい……」  つい、なんだったんだと言いたくもなったが、月は尾行中だったから、それ以上の追及は避けた。それに、乾太郎も意識的にしたわけではないらしく、自分で自分の行動に恥ずかしそうにしていた。 「でも、人が結構多いね。……これじゃストーカーを捜すなんて難しくない?」  池袋の街は雑多で人に塗れている。この辺りには色々な女性向けアニメやマンガなんかのサブカルチャーを扱う店が多いため、そういったものに興味がある女性が多く歩いている。  ちなみに月もそれなりにアニメやゲームは好きだ。わりとディープな会話も高校生の頃に友人と盛り上がった経験だってある。 「なぁに、どうにかなるさ。なにせ蔵馬はストーカーの気配を感じているんだろ。だったら、気配があればこっちに知らせてくるだろうし……。ちょっとこっちから掛けてみるかい?」  蔵馬の持つスマホの番号は月のスマホに登録している。定時連絡も兼ねて念のため、確認の電話をしてみるのは悪くないだろう。  月は画面をタップして通話を開始する。程なくして、正面奥の蔵馬がポケットからスマホを取り出して、通話に出た。 「もしもし」     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加