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それはボリすぎだろうと言い返す言葉を、ぐっと飲みこみ、傍のコンビニのATMに立ち寄って、十万を下ろすと相手に突き付け、顔も見ずに蔵馬の後を追った。
足早に進む月に、乾太郎は複雑な表情をしてついてくる。
「……悔しい」
「……うん」
怒りで歯を食いしばる。十万円は大金だ。高校生の時にコツコツとためてきた上京のための費用だった。
楽しく友人と遊ぶことを我慢し、部活も諦めバイトに勤しんだ。一日働いても一万円も獲得できない給料で、それでも地道に稼いだ十万だ。十日分以上の苦労が、一瞬して消え失せたのだ。
「今は、優しい言葉、かけないで」
「……分かった」
同情とか、優しさとかに、素直になれる精神の余裕はないと自分で分かったから、乾太郎に釘を刺した。
この怒りを、調査にぶつけて、必ずストーカーを締め上げてやると拳を握りしめた。
「いた! 和泉さん」
どうにか見失わずに済んだらしい。ほっと一安心して、昏い日陰の通路を、蔵馬の足跡をたどるように続いていく。
――と、次の角を曲がった時、スマホが着信のバイヴ音を響かせた。
すぐに月が画面を確認すると、蔵馬からの着信だ。すぐに応答のボタンをタップする。
「います。ストーカーの気配です」
「!!」
日陰の路地裏は人通りが少ない。目につく人は僅か二人……。どちらも女性だった。
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