あやかし調査員の初仕事

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 時折何もないところでしゃがみ込むスーツ姿の男性に不審な目を向ける通行人たち。なんとか誤魔化すために通話してないスマホ先へと、それっぽいサラリーマンを演じた。  その声を聴いた、通称乙女ロードの女性たちは、耳を疑ったのかもしれない。  ゆうちょんの声にソックリだ――! と。  それから、本当にゆうちょん本人なのかを確認するためにこっそりとファンが付け狙っていく。顔を確認して違うと分かれば、すぐに身を引く――。そんなことがこの池袋の一画で繰り返されたのだとしたら……。  和泉蔵馬は、それをストーカーにつけられていると錯覚してしまったのだ。  つまり、ストーカーの正体は一人ではなく、蔵馬の声を人気男性声優の声と聴き間違えた乙女たちが、その確認をしようと付け回した結果が生んだ……誤解である。 「……幽霊の正体見たり、枯れ尾花」 「貧乏神が言うんじゃないわよ……」  どっと疲れた月は、どうやら初めての調査仕事を、解決(?)させることができたらしい――。  これは後日談ではあるが、ゆうちょんの声を確認した月は、なるほど確かに和泉の声とおんなじだと、頷いたのである。  池袋の街が生んだ、小さな小さな物語であった。
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