その小さな穴から見えたもの

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 蔵馬は五円玉の(ふち)を人差指と親指でつまむ様に持ち上げた。そして、五円玉の中心にある穴から覗き見るように、月を見つめ、形のいい唇を微笑ませた。 「どうぞ」 「……あ、はぁ?」  そうして、覗き込んでいた五円玉を月の掌に渡すと、首を傾げた。どうぞ、と仕草で伝えたのが、なんだか可愛らしい。  月は良く分からなくて、隣にいる乾太郎に助けを求めるみたいに顔を向けた。  乾太郎は頬杖をついて、にんまりと笑うと、面白そうに言った。 「覗いてみてごらん。その五円の穴を」 「……?」  どういうことなのか分からない。しかし、言われたまま、素直に蔵馬から受け取った五円玉を、彼自身がそうしたように、つまみ上げて、自分の目から穴を覗き込んでみた――。  片目をつむり、じっと五円玉の穴を覗き込んでいくと、そこには蔵馬の顔が見える。対面に座る蔵馬の顔が――。 「これで僕と月さんは、友達です」 「友達?」 「困ったときは何時でも頼ってくれてかまいませんよ」 「あ、ありがと……」  これが報酬なのかと正直なところ拍子抜けだと思った月の困惑した表情を見て、悪戯な表情で笑った貧乏神と疫病神。  正直、あまりお近づきになりたくない二人ではあったが、今の月は、二人に対してそんなに嫌悪感を感じていない。  お金や不運に見舞われても、どこか充足した気持ちがあった。 「本当に、面白い人ですね」     
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