その小さな穴から見えたもの

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「私には、なんにも変わらないように見えたけど」  本当に、何の変哲もない普段の景色がそのまま穴を通して見えていたようにしか感じなかった。 「だとしたら、月さんは、僕らに対して偏見を持っていないということです」 「いやいや、持ってるって。だって、和泉さんに近寄ったら不幸になるんでしょ。正直なところ、傍に来られるとエンガチョしちゃう」  指で罰マークを作って、和泉に近寄るなと示して見せた。  実際、不幸にはなりたくないから近寄られるのは勘弁願いたいものだ。 「それは、自分の身を護るための行動であって、当たり前の反応だ。……ええとつまり。僕が人を不幸にしてしまうバケモノだと知ってなお、君は僕個人を嫌ってはいないということだよ」 「……そんなの当たり前じゃん。そういう性質を和泉さんが持っているのは仕方ないことだけど、和泉さん個人が悪意を持っているわけじゃないでしょ。嫌いじゃないよ。嫌なこと、されてないし」 「当たり前、ね……」  すぅ、と長いまつ毛を下ろして、長髪の和泉は柔和な表情で息をひとつ吐き出す。  ふと、こんなやりとりを、乾太郎ともしたことを思い出した。     
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