その小さな穴から見えたもの

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 自分の中では当たり前だと思っていることが、他人からすればとても特異なことらしく、月はそれに対して実感が湧いていなかった。 「好きになりそうだ」 「駄目だ。キララちゃんはオレのだ」 「……私を所有物扱いすんな」 「友達なら、いいだろう?」 「まぁ、それなら別にいーけど」  つっけんどんに返事をしたのは、『好きになりそう』と呟いた和泉の声に、ドキンとした照れ隠しだった。 「ていうか、和泉さんは毎日、この街の不幸とか、厄とかを回収してくれてるんでしょ。……寧ろ、いい感じだと思うけど」 「……参ったな、本当に。ぐうの音も出ない」  そう言うと、蔵馬は立ち上がった。そして姿勢よく背筋を伸ばし、両手を前に翳すと、瞳を閉じて耳にしたことがない言葉で呪文のようなものを紡ぎだしていく。 「な、なに?!」  次第に、蔵馬の突き出された両手の前に、小さな黄金のチリのようなものが集まり始めた。キラキラと輝き、まるで砂金が風に舞っているようだ。  その小さな輝きが集まり出すと、やがてそれは大きな光の塊になった。  驚愕してその光景を見つめていた月は、光の神々しさに目を奪われていた。超常現象というものを、本当に目の当たりにしているのだ。  やがて、呪文が細くなり、音が止んで光は消える。  大きな光球の内側からは、小さなつづらが出てきていた。     
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