その小さな穴から見えたもの

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 思わずはしゃぐ月に、聞こえないように口の中で呟いた乾太郎は、頬杖付いたままに顔を少しだけ逸らした。 「じゃ、このつづらをそのままオレに献上しなよ、それで少しは貧乏神の効果も相殺されるだろう」 「そう、だな。こんなの持ってても私、換金方法なんか分かんないし、最初からそういう話だったよね。じゃあ、かんたろ、貰ってくれる?」 「毎度あり、というのは少し違うか」  乾太郎がそういうと、先ほど蔵馬がやったように、手を前に翳した。すると、つづらがまた黄金の旋風になったように光の粒子になって舞い散っていく。  そしてその光の流れが、乾太郎の手の中に吸い込まれていくように見えた。  あっという間につづらは消え、小判もなくなってしまったように見えた。よくできたマジックショウみたいだったが、これはまさに超常現象だろう。 「今月分の生活くらいはこれでどうにかなるだろう」 「ほんとに、それで大丈夫なの?」 「まぁ……焼け石に水とまではいわないけど、貧乏神の能力はこれで満たされるほど安くはない。まだまだ貧乏からは逃げ出せないだろうさ」 「……不安だ」  どうやら、これからもこの『あやかしインベスティゲーション』は続けていかなくてはならないようだ。  先行きは不安になるものの、とりあえずの破滅は遠のいただろう。     
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