その小さな穴から見えたもの

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 月は、やれやれと全身の気だるさを感じながら、奇妙なあやかしたちとの生活に少しだけ楽しみを覚えてもいたのだった。  ――マヨヒガから出て、四万円のマンションに戻ってくると、疲れが一気にやってきた。 「はぁぁぁ、クタクタだ」 「お疲れ様。お風呂を沸かすよ」 「……ありがと……」  本当に、お金以外のことは乾太郎がなんでもやってくれるみたいだった。帰宅途中に食事もおごってくれた。 「マッサージしてやろうか」 「えっ、い、いやっ、いい。そこまでは……!」  脚をさすっていると、乾太郎が遠慮がちに言った。流石にそれは恥ずかしくて、とっさに断った。お風呂でゆっくり湯に浸かればとれる疲れだろう。 「なぁ」 「なに……?」 「もう、いいかな」  何の話なのか、見えなかった月は、「は?」と疑問を口にすると共に、乾太郎の方を見て、想定していたよりも、彼がすぐ傍に居たことに驚いて、呼吸が止まった。  すぐ傍――、彼の香りがする距離感で、乾太郎は切なそうな表情で月を見つめていたのだ。 「な、なんの、はなし?」 「スマホ、弁償した時の話」 「えっ、ああ――?」  依頼の最中、貧乏神の能力で十万円も出費した時のことを言っているのだろう。あの時は悔しさのあまり、乾太郎には壁を作った。怒りを何かにぶつけてしまいそうな自分に気が付いていたから。     
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