その小さな穴から見えたもの

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 そのことを、乾太郎は言っているのだろう。 「慰めてもいい?」 「えっ、い、いやっ……も、もういいよ……ちゃんと、依頼は果たせたし、これからマヨヒガで頑張れば……」 「でも、キララちゃんが傷ついた。誇りが踏みにじられていた」 「乾太郎のせいとは、思ってないから……」 「オレ、なんでもするよ。お金以外の望みなら、全部オレが叶える。辛かったなら、慰めることもしてやれる。オレ、キララちゃんにそういうことを、してやりたいんだ」 「っ……、ちょ、ちょっと近い、近いよ、かんたろ……」  妙に乾太郎が熱意をもって迫ってくるので、月は自分の体温が上がってしまって、耳たぶが赤くなる。あの時、耳をくすぐった彼の吐息の感覚が蘇ったみたいだ。 「……ごめんな、オレの能力のせいで」 「いいよ、かんたろ。私、この部屋を借りるって決めた時に、覚悟はしてたし」 「本当に平気か?」 「うん、大丈夫だ。だから、安心してよ」 「……分かった」  そう言って、名残惜しそうに身を引いた乾太郎に、月は心臓の音が聞かれないかが心配でたまらなかった。  うるさいほど脈動している。 「オレも一緒だから」 「ん……?」     
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