消えたおみくじ

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 普段は間延びしたようにしゃべる乾太郎の声も、硬い。 「上には行くな。絶対に」 「わ、分かったよ」  ぐ、と大きな乾太郎の手が月の細い手首を力強く握りしめていた。逃がさない、と言っているように。 「い、痛い。かんたろ……」 「ご、ごめん……!」  我に返った乾太郎は、ぱっと手を離して、身体を離すと、慌てたように月に詫びた。その姿は月が知っている乾太郎だったが、月はまだ気持ちが落ち着かないままで、乾太郎の豹変がずっと心を揺らしているみたいだった。 (二階……何があるの?)  階段はごく普通の階段だ。上ろうと思えば簡単に上っていける。  月から見ても、その階段には異様な雰囲気はないし、乾太郎が過剰に反応する理由が分からなかった。  しかし、ここはマヨヒガ。あやかしの世界。  常識なんて通じないのだから、乾太郎がああまでして注意する以上、その階段を上ってみようとは思わなかった。  ただ――気になったのは――。 (かんたろが、あんな風に、凄んでくる理由が、二階にはあるのかな……)  月は、マヨヒガの通路を抜けて、玄関をくぐり、外からマヨヒガの全体像を見上げる。     
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