消えたおみくじ

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 参道を進むと、そこには狛犬の像が二体並んでいた。 「あ、えっと、これが阿吽だよね?」 「そうそう。口が開いているほうが、阿形。閉じているのが吽形」 「あの二人も、口で判断できたら分かりやすいのに」  そっくりな双子の阿形と吽形の顔を思い出し、少しだけ笑みがこぼれた。 「まずは御参りしとこうかな」  狛犬の先に進むと拝殿がある。古びた印象ではあるが、穏やかであり、厳かだった。提灯が飾られていて、夜に明かりが灯ると美しい光景になるのだろうかと想像しながら、五円玉をお賽銭箱に入れて手を合わせる。 (ちょっと調査させてもらいます)  そんな断りを祈り、月は顔を上げた。  まずは何はともあれおみくじだ。脇を進んでいくと、社務所があって、そこでおみくじを買えるようだ。  眼鏡をかけたおばさんが窓口にいて、月はおみくじをひとつ、買ってみることにした。乾太郎は買わなかった。おみくじは、人間のためのものだから、と言ったが、そういうものなのかと曖昧に納得しておいた。 「あっ……大吉」 「まぁ、オレが憑いているからね」  ドヤ顔をする乾太郎は、ふふんと鼻を鳴らして見せた。  内容を見ていくと、願望、学問、争事に縁談、恋愛と軒並み良いことばかりが書いてある。     
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