あうん の こきゅう

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あうん の こきゅう

 ――結局その日、暫く神社で張り込みをつづけたものの、おみくじを取っていくような人はやってこなかった。  明日からは大学も始まる。色々と準備もあるし、残念ながら夕暮れの頃、月と乾太郎は帰宅することとなった。 「うーん、もうちょっと手がかりでもあればなあ」  スツールに腰かけて、眉間を抑えて月は収穫のなかった一日に溜息を零してしまった。  キッチンではじゅうじゅうとステーキを焼く乾太郎が、フライパンを握りながら、「ドンマイ」と朗らかな笑顔を浮かべている。 「……ていうか、そのステーキはどこから出てきたの」 「明日は入学式なんだろー? おめでたいじゃないか。お祝いだよ」 「ありがと……。でも、聞きたいのはそういうことじゃなくて、どこからその立派なA5ランクの肉を調達してきたのかってこと!」  霜降り肉である。かの有名な松坂牛のステーキが、じっくりとフライパンの上で脂を焼いていた。 「言ったろ、これでも神様に分類されてるんだぜ。このくらいのご利益はあるってことさ」  貧乏神が奪い取るのは金銭だけ――。その他諸々は月のために満たしてくれる……、食欲を満たしてくれるため、奮発してくれたとでも言うのだろうか。     
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