あうん の こきゅう

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 蔵馬が部屋に上がり込んで来たことに、乾太郎も驚愕して声を上げるが、蔵馬は乾太郎の声など聞こえないように、月の手を取り、そこに花束を手渡して来た。 「おめでとう、月さん」 「あ、ありがと……」 「おい、蔵馬ァ!」 「おや? 良い香りがしますね。夕食時でしたか、では僕もご一緒させていただこう」  長い長髪をかき上げてそのまま我が物顔でテーブルに着くと蔵馬はナプキンを巻いた。 「ちょっと待て! 蔵馬の分はないぞ!」 「カデノコ、お前だけずるいじゃないか。僕だって、月さんと一緒に食事をしたい」  カデノコ、と言うのは乾太郎のあだ名だろうか。確か、乾太郎の苗字は勘解由小路(かでのこうじ)だ。  気さくにそう呼ぶ蔵馬の様子から、二人が本当に友人なのだと、今更ながら実感した。  二人とも、人間から忌み嫌われてしまうもの同士、波長が合うのだろうか。 「月さん、僕と一緒に食事をしてくれないかな」  真摯なまなざしで、月を見つめてくる蔵馬に、月は抱えた花束と見比べて、観念したように折れた。こんなに立派な花を受け取っておいて、帰ってくれとは言いづらい。  それに、蔵馬の声は、魅力的で、そんな彼から物欲しそうにおねだりをされてしまうと、首を横に振るのが難しいのだ。 「分かったよ……友達、だしね」     
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