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知られてしまった以上、何も教えないでいるのは逆に危険だ。それは昨日のことで身に染みた。せめてマリアとリュウジには知られないように隠し通すつもりでいたのに、それが逆効果になってしまった。
「ごめん、リュウジ」
力無く謝るオレにリュウジはなんてことないように笑顔を向ける。
「状況がよく分からないので何とも言えないのですが、きっと大丈夫です!アキラさんがぼくを頼ってくれたのにそれを迷惑だなんて思いません!」
「…そっか」
何も知らない、何の関係もない人間を巻き込んでしまった。その罪悪感で胸が痛む。
リュウジはまだ戦いの痛みを知らないから無邪気に笑っているのだろう。事が進むにつれて状況を把握できるようになったらどうなるかは分からない。最悪の場合も考えうる。
だけど今だけは、その言葉を信じることにした。
「話は終わったか?」
そんなオレ達を気遣う様子もなく席を立ち、奥のアンダーフィールドに向かうカラン。
「申し遅れたが俺の名は影神華藍、ヴィワーズ創始者の孫だ。
不知火龍人、お前にも協力してもらおう」
一礼すらも優雅な動きだが、行動にちぐはぐな表情。無表情に見える微笑もその言葉も、まさに闇への招待状だ。
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「つまり企業が勝手に作った戦争の引き金になる情報が流出していてそれを回収している、という事ですか?」
アンダーフィールドに下りて、カランからリュウジに簡潔に事情を説明される。すべてを話終わっても半信半疑のようで、疑うような目がカランに向けられる。
「要約するとそうなるな」
それを物ともせずに頷くカラン。
毎度思うけど、カランの心臓ってどうなっているんだろうか。少なくともオレは年下の子にあんな視線を向けられたら、いたたまれない。
「にわかには信じられませんけど…。
でもそれならどうしてもっと大きな場所が動いてないのですか?国も総力を上げて回収すべきでしょうに」
「国自体はこの事に関与していないし、そもそもの原因はヴィワーズ社だ。内々で処理して責任を回避しようとしているのにどうして公にしようとする」
大人の事情というやつだ、というカラン。
ヴィワーズ社はどうにか被害が小規模な内にカタをつけたいらしいが、一般人にデータが配布されている時点でもう手のつけようもない気がする。
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