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「ん?それならカランがやってるデータの消去は社にとってはいいことなんじゃない?尻拭いみたいなものだろ?」
「いいわけがあるか。流失した挙げ句他人に消去されるなんて、例えれば出来た料理を他人にひっくり返されたようなものだぞ。しかも取り返しの付かない一点物。
ましてや社会的地位が脅かされる代物なら尚更だ」
なるほど。そりゃ一般人を巻き込もうがお構いなしに血眼で探すのも頷ける。
ただでさえ国家反逆罪の証拠の塊のようなものだ、見付かればどうなるかは分かったものではない。世間に露見すれば法には触れずとも、これから先の会社の信用はガタ落ちになるのは目に見えている。
「ただ、危険が伴うのも事実だ。昨日は俺と一緒に居ただけでこいつも襲撃に巻き込まれている。
強要はしないが協力してくれると助かる」
「強要しないんだ」
さっきは利用するだの協力しろだの言っていたのに。
「強要はしないが脅しはする。説明をしたのは俺なりの誠意だ。お前みたいに用件だけ伝えるのはフェアじゃないからな」
メリットもデメリットも伝えた上での交渉だ、とカランは言った。更にお前は思考も行動も短絡的すぎると付け加えられ、目をそらす。耳の痛い話だ。
そらした視線の先にはリュウジがいる。相も変わらずオレに向ける表情は信頼と尊敬が見てとれる。
「分かりました。ぼくの力がどこまで及ぶかは分かりませんが、協力させていただきます!」
ああやっぱり。
満面の笑みでこの悪魔の契約を承諾したリュウジに頭を抱える。
「そう言ってもらえると助かる。
流石に部外者に渡すわけにはいかないからな」
そう言って取り出したのは見覚えのあるデータカード。RAV攻撃プロテクトの解除キーだ、分かっちゃいたがそうなるのか。
現実に被害が出るプログラムに対抗するには同じく現実となるプログラムが必要だ。だから解除キーが渡されるのは仕方がないが……。
「これ何ですか?」
「RAV攻撃プロテクトの解除キー」
「ひっ!?」
受け取った解除キーの正体を知り、ここでやっとリュウジの笑顔が消える。恐怖の色に帯びたリュウジの顔は血の気が引き、真っ白になっていた。
落としかけた解除キーをリュウジの手から取り上げて目の前に置いてやる。こうしたデータは繊細なので大きな衝撃を受ければ破損する可能性がある。
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