第3話 データの行方と謎

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「ところで、エスペランサの個体識別記号は誰が与えた?年齢からしてお前の意見を聞き入れたとは考えにくいが」 「普通に名前って言えばいいだろ。 さあ…おじさんから貰った時から『エスペランサ』って名付けられてたし、案外テキトーに決めたんじゃないか?」 『個体識別記号』なんて冷たい言い方に一瞬ポカンとしたけど、すぐに名前の事だと気付いた。さすがに回りくどい。 名前の由来は知らないが、そう悪いものでもないだろう。こいつが生まれた過程はどうであれオレにエスペランサを託したのだ。幼い子供に渡すものに悪意ある感情は込めない、と思いたい。 「(あの策士が理由も無しにこの名を名付けるとは思えないがな…)」 返答が気に入らなかったのか、カランは眉間に皺を寄せて考え込んでいる。 カランからの質問が途絶え、それを横で聞いていたリュウジが遠慮がちに声を上げた。 「ぼくも聞きたいんですけど、アキラさんが所有しているリブラってそんなに簡単に既存データに組み込めるものなんですか?」 「いや無理だ、タルタロスデータは他者の手に渡っても使用出来ないよう何らかの細工がしてある。データを入れただけでは使い物にならない。 その細工は例えヴィワーズ社のシャドウ開発に携わった人間でも一筋縄ではいかないだろうな」 なるほど、さっきのデタラメなデータは細工の一つか。 でも『ジェミニ』はともかく、『リブラ』はメールが送られてきた時点で既に通常のデータになっていたはずだ。そうでなければダウンロードが実行されるわけがない。 タルタロスデータのキーの役割を持つラグナロクはカランの言い方からするとオレしか持っていない。つまりデータのプロテクトを解除してオレに送り付けた人間がいる。それも高度な技術を持った人物が。 「うー、だんだん頭が痛くなってきた」 今日だけで色々な事が起こりすぎている。これ以上は情報過多だ。 その様子を見ていたカランはため息ひとつこぼすと、席を立ち出口へ向かう。 「他にも聞くことがある。とはいえ今日は遅い、後日また情報の交換をやるから今日は帰れ」 それだけ言うや否や返答も待たずにその場を立ち去る。 今日だけで分かった事は多いが、それ以上に疑問も増えた。それにリュウジも巻き込んでしまった、ならばやることは一つ。 「リュウジ、ヴィワーズ社のことをもっと詳しく調べてくれないか?」 .
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