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『とはいえ今日は遅い、後日また情報の交換をやるから今日は帰れ』
大した相談もせずに帰ったカランを見届けた後、オレ達も今後の相談をした後帰路につく。
日が沈み始める時間帯で辺りは仕事を終えたサラリーマンが足を早め、家へと戻る子供の声が響いている。
「勝手だなーあいつ…」
「アキラさんいつの間にあんな人とお知り合いに?
相性悪そうですけど」
「いやなんか成り行き?」
「成り行きって…。あ、マリアちゃん!」
見覚えのある藍色の長い髪を揺らして歩く少女は、リュウジの声に反応してこちらを振り向く。確認すれば思った通りの人物で、駆け寄ったリュウジの後を追う。
「マリア、こんな所でどうしたんだ?」
「最近こっちの方に新しいお店が出来たらしいんだけど、迷っちゃったのよね。仕方ないから出直そうとしていたところ」
照れたように笑う少女、マリアは自分の幼馴染であり友人の一人で、パラディンスタイルという防御に特化されたシャドウを扱う。腕前もリュウジに引けを取らない実力者で、小さな大会だけではあるが数多くの優勝経験もある。
「オレ達もデータショップから帰るところだったから、一緒に帰ろうよ」
まだ日が高いとはいえ、人通りが少ない場所を女の子を一人で歩かせるのは不安だ。リュウジと一緒に両側を陣取り、マリアを真ん中に据える。
横並びになったオレ達はここに居た経緯を簡単に報告しあった。もちろんヴィワーズ社のことは伏せてだ。
「リュウジがいるなら私も呼んでくれたら良かったのに」
「あー、ごめんごめん。次は絶対に誘うから」
寂しそうに笑うマリアに苦笑いで返す。
冗談じゃない、リュウジですら想定外なのにマリアまで巻き込んでたまるか。
そんな事を思っていたら、リュウジがピタリと足を止め振り返る。つられて振り返るも、そこには何の変哲もない街並みが広がっているだけだ。振り返った張本人は不思議そうに首を傾げていた。
「リュウジ?どうかしたのか?」
「いえ、別に…」
『それより今度の大会見に来てください!』と話題を切り替えたリュウジに、それ以上追及する気も起こらず足を進める。三人に忍び寄る影にも気付かずに。
もしここでリュウジに振り返った理由を聞いていたら、もしここで違和感を感じ取りカランに連絡をとっていたら、あんなことにはならなかったのかもしれない。
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