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次の日、リュウジと合流したオレはいきつけのデータショップの『リゲル』に来ていた。カランも誘いはしたが、にべもなく断られ授業が終わると同時にどこかへ消えていた。
「うーん…。『ヴィワーズ社、兵器の密造疑惑』『研究員が謎の集団失踪』『大物政治家との黒い繋がり』
変な噂ばかりだなぁ」
リュウジが調べてくれた資料に目を通すと、浮き彫りになる奇妙な噂の数々。
大きな企業にはやっかみも妬みもあるだろうし、一枚岩ではないことも分かる。けれどここまで大々的に記事になるほど情報が露見し、それでも会社は打撃を受けていない。むしろ拡大している。
「今回のお話を聞くまでは全部眉唾だと思ったんですが、あながち間違いじゃないかもしれないですね。
特にここ」
そう言って指し示したのは『集団失踪』の部分。報道された日付はおじさんが居なくなった数日後だ。偶然にしても出来すぎている。
「実際は上層部と反りが合わなくなった開発部が一斉退職と言われていますが、その内の何名かは現在の所在が知れません。
これもアキラさんのおじ様が居なくなった時期と被ります。時期的にも可能性はあるかと」
「これで疑うなって方が難しいな」
はぁ、とため息を一つ。
きっと調べなければ一生知らなかった。むしろ知らなければ幸せだっただろう。
「ところでアキラさん」
「なに?」
「マリアちゃんは呼ばなくてもいいんですか?」
どろりとした感情が渦巻く中、リュウジの言葉にさらに感情が濁る。
頭痛がし始めたこめかみを押さえながら呟く。
「…マリアは駄目だ。リュウジでさえ予想外だったんだ、これ以上巻き込みたくない。
リュウジにも話しただろ?謎の相手からの襲撃の件を。きっとこれから何度も起こると思う、今のオレ達じゃどうしようもない事だって調べてるから知らない方が良いことだっていっぱいある。
知らせないことで、守れるはずなんだ」
本来、マリアはおっとりした優しい性格で献身的な性格、その上頑固で意志が強い。オレが大変な目にあっていると聞けば、あっさりと自身の協力も願い出ることだろう。だから、あの少女には知らせたくない。
その優しさと強さに甘えて胸の内を吐露するなど自分の矜持が許さなかった。
そんな自分の心を見透かしてか、リュウジは告げる。
「確かにそう思われるのも無理はありません。事実危険なことはかわりありません。ですが逆に知ることで対策を立てることも被害を抑えることもできますし、アキラさんが大変な目にあっているのにただ知らずに居たとあっては傷付くのはマリアちゃんです。
そしてなにより」
赤い瞳が俺を射抜く。
前よりもよく見えるようになった濃い赤色は、俺を責めるような色をしていた。
「守られる立場を甘受するほど、マリアちゃんは弱い人間ではありません」
その言葉にしばらく押し黙り、そっと手元の資料に目を落とした。
そんなの、きっと自分が一番よく分かっている。
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