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幼い頃から共に育った少女、下手をすれば親よりも長く一緒に居る時間は長い。だからこそ黙っていてバレた時の事を考えると、容易に想像がつく。
現状をマリアに伝えれば何故もっと早く言わなかったのだと怒るだろうし、気が付かずにいた己の不甲斐なさに泣きもするだろう。それだけはどうにかして避けたい。
…マリアは贔屓目なしに見ても可憐な少女なので、あまり泣かせたくはないというのが一番の本音ではあるが。
俯いて何も言えなくなったオレに畳み掛けるようにリュウジは言葉を続ける。
「まあ、ここまで言っておいてなんですが、ぼくはアキラさんの選択に異論はありません。なので結局はアキラさんのお心次第ですよ」
どうぞ存分にお悩みください、と満面の笑みで告げるリュウジに、さらに頭を悩ます。
この少年、普段は子犬のように自分を慕うくせに、オレが少しでも悩ましげな態度を取ると即座に正論を叩き付けて奮い立たせる。まるで迷うことなど許さない、と言わんばかりの苛烈さだ。
「リュウジって時々すごく厳しいよなぁ」
「大切に思えばこその愛情です」
「そっかー…」
年下に焚き付けられてなお踞る訳にはいかない。
バチンと自分の両頬を叩き、気合いを入れ直す。目の前の机にはまだ確認しきれていない大量の資料がある。まずはこれを片さねば身動きできない。
「よし、資料チェックの続きやるぞ」
「はい」
終わったらリュウジと一緒にマリアの所へ行こう。そう心に決めてまとめられた資料に目を通そうと手を伸ばしかけた時、カバンの方から音楽が流れ始めた。発信源はオレのSPCで、鳴っている音楽はマリア専用に設定されたものだ。
ディスプレイを覗けば、案の定先程まで議題に上がっていた少女の名前が表示されていた。
「マリアからなんて珍しい」
「…案外すでにバレているんじゃないですか?」
さすがにそれはないと思いたいが、マリアのことだ、なきにしもあらずというのが否定できない。恐る恐る通話ボタンを押して、掛けてきた本人に声をかける。
「もしもしマリア?どうしたの?」
「───て、─ん────お───」
「? マリア?」
おかしい。通話状態になっているのに声が途切れ途切れに聞こえる。
ザワリと全身に鳥肌が立つ。次の瞬間にはリュウジの腕を引っ掴み、全てを放り出して駆け出していた。
「あ、アキラさん!?」
「マリア!今どこ!?何が起こってる!?」
驚いたリュウジには悪いが説明をしている暇はない。走りながら今一度、電話越しにいる少女に問い掛ける。今度は聞こえた、ハッキリと聞こえてしまった。
予想通りにはなってほしくはなかった妄想が現実になってしまった。
「助けて、変な人から追われてる!!」
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