私の気持ち、分かって

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、ノートの隣に置かれたホワイトボードに書き始めた。 『でも、男の人が駄目なら女の人に頼むとか、色々方法はあったでしょう?あなた、入社して2年も経つのに、まだ同じ年くらいの友達も作れてないの?』 無知と無理解に縁取られた残酷な言葉。縁はズンと胃の底に鉛の弾を沈められたような気分になった。それができれば、私は今こんなに苦労も傷つきもしてない! 『そうだ。嫌なことがあってもニコニコして、聴者並になれるように人の10倍努力しろ。周りは聞こえる人ばかりなんだから、筆談してくれないのも当たり前だ。お前がもっと頑張って口の形を読めばいい。そうすれば聴者もお前を友達にしてくれる。これも小さい頃から言い聞かせていることなのに、なぜ実践できないんだ!』 ノートに書き足されていく父の文字に、薬で収まったはずの縁の胃がよじれる。大嵐の海に放り出されているのに、1番近くの船に乗っている人が、何も助けてくれない。どころか、自力で泳いで陸まで辿りつけと叱りつけてくる悪夢。痛い、お腹が痛い。 ぐらりと縁の体が椅子から傾く。母が慌てて支えようとしたのが見えた。が、縁の意識はそれよりも早く、海底のような闇に呑み込まれた。
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