蠢く夜

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 そうして準備をして部屋を出ると、少し先に人影があった。不機嫌な様子が遠くからも分かるその影は、ズンズンとこちらへ近づいてくる。 「うわぁ……」  言って、チェスターは卑怯にもボリスの影に隠れた。 「本当に図々しく王の住居に上がり込むとはな。礼儀知らずめ」  銀髪を靡かせるフェオドールが睨み付けてくる。相変わらず可愛くない言い方だ。 「こんな所で何をしている。勝手にフラフラと歩き回るな」 「お言葉ですが、我々は与えられた範囲内で動いているにすぎませんよ」 「兄上がザルなのをいい事に。いったい何を考えている。侵略者め」  その言葉に、ボリスは多少カチンときた。  確かに侵略の歴史はある。帝国を名乗るのだからそれは否定できない。だが、今現在は違うのだ。  酒の勢いもあるだろう。そこで腹の立つことを……国を貶めるような事を言われたのはイライラを増幅させる。ボリスの目が確実に吊り上がった。 「なんだその顔は」 「言っとくけど、一応は俺達国賓なんだけど? 王の弟だかなんだか知らないけれど、国の客人に対する口の利き方も知らずに王族なんて、随分怠慢なんじゃないの?」 「な!」  怒ったようにカッと顔を赤くするフェオドールをボリスは鼻で笑う。ムクムクと苛めてやりたい衝動が沸き上がり、口の端が上がった。     
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