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ここに来てまずは自分達の泊まる場所の見取り図は頭に入れた。これは癖のようなものだ。だからアルヌールの倒れた場所までも迷いはなかった。
アルヌールは厠のすぐ近くに倒れていた。その肩口には短剣が深く刺さったままで、白い雪が血に濡れていた。
「アルヌール様!」
声をかけ、傷に触れないように抱き上げると薄らと緑色の瞳が開き、口元には薄い笑みが浮かんだ。
「いや、油断した……一撃浴びせたのだが……用足しも満足にできんとは、参った……」
「それだけ話せるなら頑張れるでしょ」
焦っているから敬語も捨てて、ボリスは着ている上着を丸めて傷を押さえた。深いだけあって血は止まらないが、傷はここ一カ所だ。
「兄上!」
「フェオドール? なぜ、お前が……」
「廊下で偶然合ったんだよ」
「そう、か……っ!」
「すぐに人が来るから、動かないで」
止血なんかはできるが、この傷は明らかに縫合が必要だ。そうなるとボリスにできるのは止血しかない。手の全体で圧迫しつつ、指で止血点を押しはしているが止まる気配はない。
「だれが、こんな……」
「悪いな、顔が見えなかった。夜で暗いし、顔を隠していたからな」
「上からも顔までは見えなかったから、分からないけれど」
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