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と、冗談のようなやりとりをしていたが不意にアルヌールの表情が引き締まる。空気も一緒に緊張した。こうした瞬間は上に立つ者の風格を感じる。身近で言えばアレクシスが、遠くではカールがこのような一瞬の緊張を生む。
「さて、昨夜の事だが。ジョルジュに聞いたがお前達を疑う者がいるそうだな?」
「そのようです」
「バカな事だ。俺は寸前までお前達と飲んでいた。離れていた二名……ボリスとチェスターか。あいつらも事が起こった時にはフェオドールと一緒だった。冷静に考えて不可能だろうに」
「そのように思わせたい者がいる。ということでしょう」
「そうだな」
「陛下は、誰か当たりをつけているのでしょうか?」
問えば人懐っこい瞳が細められる。言うのを多少躊躇うが、やがて息を吐いてその思いを消した。
「フェオドールの側近達だな」
「王位争いがあると?」
「フェオドール本人にはそのような気はないだろう。あの通り反抗期だが、玉座に執着があるようには思えない。どちらかと言えばその周囲が、あいつを王に立たせたいのさ」
なんとなく理解はできた。アルヌールは型破りな部分のある人だが、王としては優秀な部類だ。それは城を見ていれば分かる。今国政を担っている家臣達はみな、アルヌールが怪我をしたと聞いて動揺し、案じていた。慕われている王なのだ。
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