素直じゃない(ボリス)

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 声を変えて硬く言ったが、反応がない。身動きもしない。頑ななその様子に、ボリスは食事のトレーを置いて腰に手を当て、溜息をついた。 「いつまでそうしてるつもり? 食べないと辛いのは、君だと思うけれど」 「!」  呆れた様子の声に、ようやくフェオドールは顔を上げた。アーモンド型の瞳は涙で濡れて、擦ったんだろう目尻は赤くなっている。 「なに情けない顔してるわけ? あっ、それともこんな扱い初めてでビビったとか?」 「な! 何故お前がここに! 誰か……衛兵!!」 「いるわけないじゃん、バカなの?」  口元に笑みを浮かべてボリスは近づいていく。そして、はっきりと顔の見える所まで出た。  わりと、好きなタイプなのだ。意地らしい部分とか、苛めがいのありそうな部分とか。  フェオドールは驚いて体を引く。そして、溢れた涙をもう一度ゴシゴシ擦った。そんなにしたら真っ赤になるのに。痛くなりそう。知った事はないけれど。 「なんでお前がいる!」 「ご飯持って来たよ、ご主人様?」 「バカにしてるのか!」 「うん、おおいに。お馬鹿さんの王子様をちょっと見学しにきただけ。どう? 惨め?」  心に刃があるのは知っている。従順なタイプに惹かれないのも知っている。だからって従わない相手はもっと苦手だけれど。だから恋人なんていない。いると不幸そうだし。     
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