375人が本棚に入れています
本棚に追加
そっと近づいて、逃げないのをいい事に腕の中に収めていた。ちょっと、衝動的な気がした。でもこれがボリスの思いだったから、それでいいんだと思えた。
「本当に君って、バカだね。脳みそ入ってる?」
「煩い! 今はお前の事なんて……」
「あれ、演技だからね」
「え?」
「アルヌール様のあの態度、演技だから。君を側近や外部の悪意から守るのに隔離しただけだし、本気に見せないと効果がないから冷たくしただけ。っていうか、分かろうよそこ」
「だって、あんな! あんな顔、見た事ない……」
「それだけ、弟の事心配してるってことだよ」
本当に、一つ一つ言わないと分かんないんだ、この子。それだけ真っ直ぐに、向けられる言葉を飲み込んでいる。悪意にも気付かず、陰謀も気付かず、知った時には飲まれている。
アルヌールとは、まったく違う。
ボリスは腕の中の頭をポンポンと撫でた。ずっと、しゃくり上げている。服が濡れていく。胸元に縋った手が、震えている。大きく声を上げない事だけが、意地らしく見えた。
「ホント、バカなんだね君。王族でその世渡り下手、致命的じゃない?」
「煩い! うっ、バカにするな、わた……私だって……」
「はいはい、男なら簡単に泣かないでよ、面倒だし。ってか、鼻水つけたら怒るから」
「っ!」
「……もうつけてるでしょ。お仕置きね」
「いっ、嫌だ!!」
最初のコメントを投稿しよう!