素直じゃない(ボリス)

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 そっと近づいて、逃げないのをいい事に腕の中に収めていた。ちょっと、衝動的な気がした。でもこれがボリスの思いだったから、それでいいんだと思えた。 「本当に君って、バカだね。脳みそ入ってる?」 「煩い! 今はお前の事なんて……」 「あれ、演技だからね」 「え?」 「アルヌール様のあの態度、演技だから。君を側近や外部の悪意から守るのに隔離しただけだし、本気に見せないと効果がないから冷たくしただけ。っていうか、分かろうよそこ」 「だって、あんな! あんな顔、見た事ない……」 「それだけ、弟の事心配してるってことだよ」  本当に、一つ一つ言わないと分かんないんだ、この子。それだけ真っ直ぐに、向けられる言葉を飲み込んでいる。悪意にも気付かず、陰謀も気付かず、知った時には飲まれている。  アルヌールとは、まったく違う。  ボリスは腕の中の頭をポンポンと撫でた。ずっと、しゃくり上げている。服が濡れていく。胸元に縋った手が、震えている。大きく声を上げない事だけが、意地らしく見えた。 「ホント、バカなんだね君。王族でその世渡り下手、致命的じゃない?」 「煩い! うっ、バカにするな、わた……私だって……」 「はいはい、男なら簡単に泣かないでよ、面倒だし。ってか、鼻水つけたら怒るから」 「っ!」 「……もうつけてるでしょ。お仕置きね」 「いっ、嫌だ!!」     
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