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機嫌が悪いのは嫌だけど。
ラシルスに隠し事するのはもっと嫌だ………。
「あのね………わたしクロウさんにね、」
内容を頭の中で整理しながら、ルウリが話し始めると、
「───あいつ、おまえに何をした」
低い声を響かせながら、ラシルスは間を詰めるようにゆっくりと身体を動かしルウリに向いた。
真っ直ぐに射抜くような、青よりも翠が濃い眼差しが、ルウリの心を冷やりとさせる。
近くなった距離で、ラシルスから果実酒の香りがふわりと漂った。
「何をした」と訊かれて。
クロウの鼻先と吐息で耳元をくすぐられたことを思い出し、ルウリは言葉に詰まった。
「クロウさん、わたしが髪と瞳を染めてることを言い当てて………」
「なんだと!? なぜ判ったんだ」
「わたしからモールの樹の匂いがするって言われたの」
「匂い………?」
「でもクロウさん、誰にも言わないからって」
「それで?」
ラシルスの眼差しが益々険しくなり、それがチクチクと胸に刺さるような気がして。
ルウリはおもわず目をそらして俯いた。
「こっちを向いてちゃんと説明しろ」
ラシルスの顔の近さに慌てながら、ルウリは仕方なくソファーの上へ座り直し、身体ごとラシルスの前に向き合うような体勢になった。
「誰にも言わないから安心していいって言われて………」
「言わないから。なんてな、そういう言葉には「そのかわり」という続きがあるものだ。違うか?」
見事に言い当てられ、ルウリは気まずい表情を浮かべながらコクリと頷いた。
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