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「申し訳ありませんでした、ルウリ様」
売り場で深々と頭を下げるセバスに、ルウリは驚き謝る理由を尋ねた。
「午後の売り子は私が担当するはずでしたのに」
「そんなの仕方ないよ。今日はお客様が来る予定になっていたんだから。
それなのにわたしこそ街へ買い物に行ったりして。セバスさんは何も悪くないよ」
「いいえ。実を言えば今朝の段階ではまだお客様の予定は未定で、決定ではなかったのです。まさかラシルス様が直接お連れになるとは。
私も少し驚いているほどです」
「………ね、セバスさん。ラシルスは今日、もしかして街に行っていた?」
「さあ、」
セバスは首を傾げた。
「お客様と商談があるとしか聞いてませんでしたので。街で何かありましたか?」
ルウリは慌てて首を振った。
「なんでもないの。───あ、わたし、お客様がいる間はあまりお屋敷の中をうろうろしない方がいいよね。お部屋で静かにしているから、何かあったら呼んでね」
クロウという青年のことが気になるけれど。
お客様に仕えている者であれば、詮索も失礼になるだろう。
ルウリの言葉にセバスは頷いた。
「そうですね。どうやらお客様は少し気難しいお方のようなので。ご不自由をおかけしますが、少しの間だけご辛抱を」
「わたしは大丈夫よ。ラシルスにもそう伝えて。お仕事を優先してって言っておいてね」
「かしこまりました。
でもラシルス様はルウリ様のことを気にかけているご様子でしたよ。
お泊まりになるお部屋も、当初とは別の、ラシルス様のお部屋のある棟に替えるようにと申されましたので。お時間さえ空けば必ずお声がかかりますからね。
それまで待っていてくださいませ」
「お部屋を?………いいのかな……。わたし今は〈お手伝いさん設定〉なのに」
嬉しいけれど、なんだか素直に喜べない。
「ラシルスさまのご意向ですから。何も心配することはございませんよ」
優しく微笑むセバスになんだかホッとさせられて。
ルウリは頷き笑顔を向けた。
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