13・吐息とため息

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「えッ、食べてないの?」 「はい、果実酒を少しほど。料理は食べないから自分の分は作るなとも仰られて。 ルウリ様もご存知かと思いますが、ラシルス様は普段からあまり食事をなさらない方ですので。 糧となるものが人の姿のときと、そうでないときと違いもあり、栄養や力として体内に蓄える量などに関しては、私にも想像がつきません。 なのでお食事のことは普段からラシルス様の希望通りにしているのです」 長年アーヴェ家に仕えているセバスは、ラシルスが聖獣でもあり魔獣でもあるという秘密を知る一人だった。 「そして今宵はひどくご機嫌が悪うございます」 「えぇっ。 でもどうして?お客様との商談が上手くいかなかったとか?」 「さぁ………。お客様のご機嫌はとてもよろしいので、商談とは違う何かでご機嫌が悪いかと思われますが。とにかく私もお手上げ状態なので。ルウリ様のお力をお借りできたらと………」 「えッ、わたしが !? ………ん~~っ。 機嫌の悪いラシルスはわたしも苦手なんだけどな………」 「そこをなんとか。ルウリ様でしたらきっとラシルス様の機嫌が直る方法をご存知なのではと思ったのです」 「そ、そんなこと言われても………」 「ラシルス様がお喜びになることがあると良いのですが」 ラシルスが喜ぶこと。 「それって………。嬉しくなることでもあるよね?」 「ええ、きっとそうですね」 「心当たりがないわけじゃないけど………」 (だけどそれって………) ラシルスが喜ぶことや嬉しくなることが知りたくて。 この前〈水玉砂ノ原〉で「ラシルスが嬉しくなること」を聞いてみたけれど。 でもそれは、とてつもなく勇気が必要で───。 「何か心当たりがおありなのですね。そうですか、それならよかった」 「………う、うん。頑張ってみる、けど………」 「では私はまだ後片付けなど残っておりますのでこれで。 ラシルス様はこちらへ戻られるといつも真っ先に書斎へ入ります。ルウリ様のお部屋の隣りですから、すぐに判るはずですよ。ではよろしくお願い致します、ルウリ様」 セバスはホッとしたように微笑むと別棟へ戻って行った。
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