13・吐息とため息

8/11
前へ
/185ページ
次へ
肝心な部分を抜かして話したのは確かだが。 「だ、だってラシルスわたしの質問に答えてくれないじゃない。それになんだか怒ってるし、機嫌悪いし。どうして?」 「それはおまえが………」 「わたし………?」 (わたしのせい!?……わたし何か悪いことした?) 「───な、なによっ。ラシルスだって街にいたくせに。わたしのこと見かけたなら声かけてくれたらよかったじゃない」 「なんの話だ。俺は街になど行ってない」 「そんな………。だってわたし見たんだもん。確かに一瞬だけだったけど………」 とても美人な女性と一緒にいたラシルスを。 そしてその人は別棟の部屋に見えたあのお客様に似ていた。 でも街で見かけたのは一瞬で。 今になってみれば、絶対だと言える自信もない。 「とにかく予定外の行動はするな。街へ行くのは明後日で、それまでおまえは屋敷で薬草水の売り子だ」 「わかってる」 「わかってないだろ。その目も染まってないじゃないか」 「だってもう寝る時間だもの。色目薬は付けなくてもいいと思う」 「客がいるんだ。いつ誰に見られるか判らないじゃないか」 こんな時間にそんな可能性なんて少ない気がするのに。 けれどあのクロウという青年には知られている。 姿を偽っていることを。 「………ごめんなさい。気をつける………」 ラシルスに対して、腹立たしく思う気持ちもあるけれど。 言い争うために来たのではない。 逢いたくて、顔が見たくて、声が聞きたくて。 ………傍にいたくて。 (だからわたし、ここへ来たのに)
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加