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肝心な部分を抜かして話したのは確かだが。
「だ、だってラシルスわたしの質問に答えてくれないじゃない。それになんだか怒ってるし、機嫌悪いし。どうして?」
「それはおまえが………」
「わたし………?」
(わたしのせい!?……わたし何か悪いことした?)
「───な、なによっ。ラシルスだって街にいたくせに。わたしのこと見かけたなら声かけてくれたらよかったじゃない」
「なんの話だ。俺は街になど行ってない」
「そんな………。だってわたし見たんだもん。確かに一瞬だけだったけど………」
とても美人な女性と一緒にいたラシルスを。
そしてその人は別棟の部屋に見えたあのお客様に似ていた。
でも街で見かけたのは一瞬で。
今になってみれば、絶対だと言える自信もない。
「とにかく予定外の行動はするな。街へ行くのは明後日で、それまでおまえは屋敷で薬草水の売り子だ」
「わかってる」
「わかってないだろ。その目も染まってないじゃないか」
「だってもう寝る時間だもの。色目薬は付けなくてもいいと思う」
「客がいるんだ。いつ誰に見られるか判らないじゃないか」
こんな時間にそんな可能性なんて少ない気がするのに。
けれどあのクロウという青年には知られている。
姿を偽っていることを。
「………ごめんなさい。気をつける………」
ラシルスに対して、腹立たしく思う気持ちもあるけれど。
言い争うために来たのではない。
逢いたくて、顔が見たくて、声が聞きたくて。
………傍にいたくて。
(だからわたし、ここへ来たのに)
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