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神代周は数年ぶりに父親の書斎の戸を開けた。使う者のいないその部屋は埃の層が年季を感じさせた。
(しっかし何年掃除してなかったっけなー・・・)
閉じたカーテンを開けると舞い上がった埃が日の光でキラキラ揺れた。
彼は学生で、明日提出のレポートがあるのだが端末が故障してしまい、家の中で最も端末がある可能性の高いこの部屋へやってきたのだ。
探し始めて程なくして端末は見つかった。ノート型のものが机の脇に落ちていた。拾い上げてチェックする。
「ん?」
周はおかしなことに気がついた。その端末はネット接続の端子が外され、さらに無線機能のない型のものだった。それはまるで、
(この端末で外部に接続する事を防いでるような・・・?)
しかし訝しんだのも一瞬の事で、周はそのまま時間が惜しいとばかりに書斎の机に向かって座り、レポートのための作業を始めた。問題なく端末は立ち上がり、周はレポートの入った外部メモリを挿し込んだ。
すでにレポートに関する資料は揃っており、あとはそれらをまとめるだけで完成するのだが、とある事情もあって、周はその作業が常人よりも遅かった。
(難儀な体質だよ、まったく)
心の中でぼやきつつ、端末のキーをたたく。
それは唐突に現れた。
周はふと画面の隅にテキスト窓が開かれているのを見つけた。まだ文章は書かれていない。
(間違って開いたか?)
そう思いつつ窓を閉じるためにカーソルを動かす。
すると、
『だれ?』
テキスト窓に文字が浮かび上がった。
「何だこりゃ?」
思わず声にでる。
『なんだとはなんだ』
意外なことに返事がきた。周は少し驚いたが、何のことはない、端末を見るとマイクとカメラが起動していた。
「お前、AIか」
『そう』
今のご時世人工知能はありふれた物だった。災害予知、様々な乗り物の完全自動運転、株取引、毎日の献立に至るまで、あらゆる場所でAIは活用されていた。しかし、
(会話ができるタイプってのは珍しいな)
人工知能が活用され始めた頃は物珍しさで会話ができる物も多かった。しかし人間の速度に合わせるとその処理速度が活かしきれず、会話自体も不自然さが目立つなど、実用性はないとされて次第に廃れていった。
しかし今の周にはそんなことはどうでもよかった。このAIをおとなしくさせないと、作業に集中できない。幸いこちらの声は聞こえているみたいなので、音声で入力して大人
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