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それから2年後。8月2日。
わたしは今独りで、裏銀座を水晶岳に向かって歩いている。水晶岳がどんどん近づいてくる。水晶小屋で一息ついたら、いよいよだ。足下でキラキラとした結晶が朝日を浴びて輝いてる。目の前に頂上が迫る。もう少し。あともう少し。きっと頂上で巧が待っていてくれてるんだ、最高の景色を用意して。
見えた。頂上。360度の素晴らしい展望が疲れたわたしの体を包んでくれる。歩いてきた野口五郎岳、薬師岳、鷲羽岳、赤牛岳、あ、あれは槍ヶ岳。
思い出される。
あの西穂で、まだ山を知らなかったわたしが、行きのロープウェイから見える、とんがった山を見つけて巧に聞いたんだ。
「あれ、なんて山?」
「ああ、あれ槍ヶ岳だよ」
そしてあのとき、わたしは巧にこう言った。
「かっこいい、あの山に登りたい」
そんなわたしを、巧はうれしそうに見ていた。
きっとあそこにも巧がいる。また、会いに行かなきゃ。そして、わたしは山に登り続ける。
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