0人が本棚に入れています
本棚に追加
「晶、劔から左を見るとね、立山連峰があって、薬師があって、そして赤牛、でその隣に水晶岳ってあるんだけど、見える?」
「水晶岳?」
「巧ね、あの山をあなたに見せたいって。劔に行く前日に、今度あなたをここへ誘うんだって言ってたの。」
巧からはそんな話は聞いていなかった。
「ほんとは水晶に登れたらいいんだけど、あの山は1日では行けないから、今の晶には体力的に無理だろうって。でも、ここなら来れるし、どうしても見せてあげたいんだ。そしたら、もっと山が好きになるんじゃないかなって思わない?だって、自分の名前が山の名前ってうらやましいよ。ってね。」
そうか、わたしの名前、速水晶(はやみあきら)で水晶(すいしょう)。
「でね、こんなことも言ってたよ。あの山も晶みたいにキラキラ光ってるんだよって言ってやるんだって。ちょっと引くでしょ。でも、引かれてもいいんだって。晶はもっともっと山を好きになる。晶なら、僕と同じ目線で山に登ってくれるような気がする。でも今が大事なんだ。好きにも嫌いにもなる要素を晶は持ってる。だから、好きになる手助けを僕がしていきたいって」
そのセリフ、直接言ってほしかった。
「晶が、西穂のあと山を拒否してたのに、1年経った頃、急にまた行きたいって言ったとき、巧、すごく喜んでたんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!