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悪いこと
悪いことがしたいと思った。
本当にただそれだけのことだった。
子供の頃からなに不自由なく、そこそこ裕福な家庭で育てられ、学校でも優等生扱いされてきた。
別になんの不満もなく、なにか強く希望することもなかった。
けれど、無性に悪いことがしたくなった。
理由なんてなかった。本当に、まったくもって、なんの動機も見当たらなかった。
強いて言う言葉さえ、思いつかなかった。
いつもと同じように学校を終えて、いつもと同じ道を通って、いつもと同じ角で倖也と別れて、いつもと同じ時間には家に着いた。
玄関を開けると、ウチの中はいつもと同じようにガランとしていて、カーテン越しの窓の向こうの陽射しが強く感じられた。
キッチンの真ん中のテーブルは、いつもと同じようにきれいに片付いていて、汚れ一つついていない白い花瓶には淡い紫のグラジオラスが活けられていた。
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